日常風景 * 写真・文章 Copyright@”Mas Ciclismo Diary”
「サラバ」By 西加奈子 <読後感>
ストーリー性抜群で、ジョン・アーヴィングを思い起こした。
「The Cider House Rules」の根底を流れる見えない哀しさや淡いせつなさをにじませ、
「The Hotel New Hampshire 」の群像劇スタイルをまじえつつ、
「The World According to Garp」にみられる心理小説要素も加わっている。

実際物語の中でアーヴィングに触れるシーンが登場するので
筆者の方は、それらの影響を受けているのだろう。


様々な人たちが個性的な生き方をして、
ときに触れ合い、ときに反発しあい、社会的規範と相いれず悩み、挫折し、それでも歩んでいく。


フランス人作家、ディディエ・ヴァンコヴラール(Didier Van Cauwelaert)の小説のような創造性も魅力的。
想像の翼を思いっきり羽ばたかせ、のびのびと筆を運んでいる様子が感じられる。


人生には当たり前のようにアップダウンがあるけれど、
最高潮に盛り上がるポイントは人それぞれであり、
運を若いころに使い切ってしまうのか、しり上がりの人生を歩むのか、
前者の場合、どう軌道修正していけばいいのか。


そしてタイトルになっている「サラバ」。
思い切りがよい、スパっとした感じのあるこの言葉が
過去や迷いを断絶しつつも、未来への懸け橋として爽やかな余韻を残す。






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2015.09.25 Fri | Books| 0 track backs,
「印象派のミューズ」 <感想>
 印象派のミューズ:ルロル姉妹と芸術家たちの光と影 by ドミニク ボナ (著), 永田 千奈 (翻訳)

先日読み始めた段階で先のエントリーにてすぐさま絶賛した「印象派のミューズ」読了。
素晴らしかった。

印象派とは、作風だけでなく、濃厚な人と人との結びつきを叶えた特殊な現象だったようだ。

本作は本国でシモーヌ・ヴェイユ審査員特別賞を受賞したそうで、
綿密な調査に基づいている。

ルノワールのミューズとなった姉妹の人生の暗転、
それを取り巻くサロンの人々の個性的な人生が
生き生きとえがかれている。
描写の対象は姉妹に限定されておらず、サロンの人々すべてが主人公だ。

ドビュッシーの女たらしぶりも圧巻だけど、
ドガは気難しい
モーリス・ドニは温厚
ヴュイヤールいやな奴、

そんなレッテルを思い浮かべつつ作品を見たり聞いたりすると、
どこかなるほどな、と思えたり、或いは、作品のイメージと人となりが相反していて面白いな、と感じたり。

訳も秀逸。文句なく自然で読みやすかった。



2015.09.17 Thu | Books| 0 track backs,
「印象派のミューズ:ルロル姉妹と芸術家たちの光と影」 白水社
何かの書評で興味を持ち、読み始めた。
「印象派のミューズ:ルロル姉妹と芸術家たちの光と影」。


手にする前、副題をちゃんと見なかったため、
過去の印象派の画家たちのミューズとうたわれたモデルたちが
次々登場するのかと思った。

実際は、ルノワールが描いた
「ピアノに向かうイヴォンヌとクリスティーヌ・ルロル」という絵に登場する
2人の姉妹の数奇な運命をたどる趣向だった。

とはいえお金持ちの子女2人を中心に展開するわけでなく、
画家でもあり、画家の支援家でもあった姉妹の父の周囲に集まった人々を
ひとりずつ掘り下げていくため、
さまざまな芸術家たちの個性や当時の様子が浮き彫りになり、
なかなか興味深い。


ルロル家にはドビゥッシー、ドガ、カリエールなど一流の芸術家たちが集ったそうで、
芸術家たちの交流というのがかなり頻繁に行われていた事実を改めて認識する。

居間でピアノを弾くドビュッシー、それを聞くショーソンやルロル家の人々、画家たちが集ったサロンの雰囲気は
どんなに華やかだったことか。
マルセル・プルーストの「失われた時を求めて」にも登場する内輪のサロン。
縦横無尽な芸術の交差点があった当時の様子がしのばれる。

ドビュッシーが個人宅でカジュアルに演奏する・・・なんて贅沢な話だろう。


印象派、とか象徴主義、とかいったカテゴリーが明確だった時代だからこそ
互いに同じ”流派”の芸術家同士、その傾向に関する主張交換を必要としたのだろう。
いまではxx派といったスタイルは多様化してしまい、
個人的な制作スタイルになってしまった。

大物芸術家たちが個人宅、サロン、カフェなどに集い、議論した光景は、
思い描くだけでも華麗でうっとりしてしまう。
たいそう熱気に包まれていたことだろう。


まだ読み始めたばかりだけれど、すでに興味津々。
どんな運命にもてあそばれることになるのだろう、あの姉妹は。








2015.09.06 Sun | Books| 0 track backs,
「アリアドネの弾丸」 & 「ブラックペアン」 / 海堂 尊  <感想>



「チームバチスタの栄光」しか読んだことのなかった海堂 尊さんの他の本を読んでみた。
1冊目が「アリアドネの弾丸」、2冊目が「ブラックペアン」。


医療ミステリーが好きで、Robin Cookあたりのペーパーバックは結構読んだ。
病院という閉鎖的で未知の舞台で起こるミステリーは、
テクニカルなトリックが満載で、興味をそそられる。

医学博士・海堂尊さんも、そうしたスペシャリストならではの世界を作品の中で掘り下げ、
たとえフィクションを交えてつづられていたとしても、
読み応え十分なのだった。


「アリアドネの弾丸は、磁場という特殊なMRIならではの環境が
キーになっている。
海堂さんならではの着眼点。
テクニカル・ターム満載で、ワクワクした。
展開の仕方にも少し工夫があって、時系列を少しずらすことでリズムが生まれている。
どす黒い陰謀の中にもスペシャリストの世界の浪漫を思わず感じてしまう。


「ブラックペアン」は、高階や渡海という個性的な人物が二人登場するため、
やや視点がぼやけてしまい、読みながら主人公のキャラクターの色分けがすっきりできなかった。
全体的に、ペアンがどう要になるのか、といった着想で強引に引っ張っていく感もある。
とはいえ、細かい描写などは相変わらず門外漢にはスリリングで、
知られざる独特の世界に、やはり惹かれるのだった。
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2015.08.27 Thu | Books| 0 track backs,
「離陸」 / 絲山秋子
「春の戴冠」をやって読み終え、この本を手に取った。




あっという間に読み終えた。
前半の丹念につづられたダムの現場の話から
おとぎ話混じりの話に展開したときは少々面食らった。

堅くて生真面目な土木現場の話だけで十分読み応えがあった気がする。
あるは、徹底的に不思議な女性・乃緒のミステリアスさをもう少し掘り下げてほしかった気もする。
連載小説とういことで、その中間を取ったのだろうか。

ただ、観察力・たとえ話はあいかわらず秀逸。

コピー用紙で指を切ったときの、ささいな、それでいて差すような痛み、
といった言葉など、何気ないオフィス風景・日常風景を拾う比喩が
妙な説得力をもち、瑞々しい五感力にハッとさせられる。


2015.08.05 Wed | Books| 0 track backs,
辻邦生展
毎日寝る前に少しずつ読んでいた辻邦生の「春の戴冠」、先々週やっと読み終えた。

7月29日が命日だそうで、学習院大の資料館で辻邦生から寄贈された文書のうち、
著書「西行花伝」関連の展示が開催中。

ささやかな展示だけど、自筆のなにかを見て感じてみたかったので週末行ってきた。

丁度オープンキャンパス開催中。
(日曜は資料館は閉館だけど、このため特別開館だった。)

IMG_1213.jpg


資料館は北海道の時計台みたいな建物。

IMG_1230.jpg


高校時代の日記や原稿の文字は蟻のように小さく、ノートや原稿用紙にぎっしりと。
歌人に魅せられ、高校の時から膨大な歌を詠み、やはり並のの才能ではない。

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2015.08.03 Mon | Books| 0 track backs,
角田光代さんの講演会と、河出書房新社 池澤夏樹=個人編集 日本文学全集 全30巻
数年間にわたって出版される予定の
河出書房新社の創業130周年記念企画「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」(全30巻)




池澤夏樹さんの「古事記」の新訳、
角田光代さんの「源氏物語」の新訳、
川上未映子さんの「たけくらべ」の新訳、

などが出ることで話題をまいている。


昨日その角田さんの講演会に行き、
その裏話をうかがった。


いきなり料亭で一席が用意され、なにごとか嫌な予感に包まれる中
編集者から切り出されたのが、源氏物語新訳の依頼だったそう。

本当は別の古典のほうが好みだったそうだが、
(実名で作品名があげられたが、さしさわりがあるといけないので伏せておく)
選択の余地は与えられなかったという。


池澤さん経由のご指名ということもあり、断れなかったものの、
3年間この作業に従事せねばならない。
連載物などをすべて打ち切って取り組むことになった。

かくも長い間、独自の著書を一切封印するというのは
作家になってから初めてのことで、不安もあった模様。


「源氏物語」は中学、高校で断片的に読んだけれど
通して読んだこともなく、現在読書中。
現代訳の比較としては、林望さんの訳が一番読みやすいとのこと。

(与謝野晶子も読みやすいが、歌人ゆえ、和歌に訳が載っていないのが難点なのだとか。)


ほかの登壇者の方の話からも、谷崎の訳はわかりにくく、
創作を加えている訳者(窪田空穂だったか?)もいるという。


高校生から質問で、
「源氏物語に挑戦するコツ」を求められたときには、
現代語訳、とくにわかりやすいものを読むよう勧めていらした。


源氏は内容を俯瞰してみて初めて全体のつながりに気づき面白さが増幅するので、
そうした全体像が個々の訳においてもなにかしら表現できるよう模索しておられる由。

2017年出版予定、となっており、3年間で書き上げねばならない。
荷は重いハズだが一方で、
「源氏の訳は多々出ていて、読者側の選択肢が多いのでその点は気楽」とも。



さてこの全30巻、
ダ・ヴィンチNews http://ddnavi.com/news/194687/によると、すべてが古典の現代訳ではないようだ。

第14巻以降は、谷崎などの文学がそのまま掲載される。
須賀敦子さんも含まれる。


ダ・ヴィンチNews http://ddnavi.com/news/194687/抜粋:

●池澤夏樹=個人編集 日本文学全集
1:古事記 池澤夏樹 訳 ■新訳

2:口訳万葉集 折口信夫
百人一首 小池昌代 訳 ■新訳
新々百人一首 丸谷才一

3:竹取物語 森見登美彦 訳 ■新訳
伊勢物語 川上弘美 訳 ■新訳
堤中納言物語 中島京子 訳 ■新訳
土佐日記 堀江敏幸 訳 ■新訳
更級日記 江國香織 訳 ■新訳

4:源氏物語 上 角田光代 訳 ■新訳
5:源氏物語 中 角田光代 訳 ■新訳
6:源氏物語 下 角田光代 訳 ■新訳

7:枕草子 酒井順子 訳 ■新訳
方丈記 高橋源一郎 訳 ■新訳
徒然草 内田樹 訳 ■新訳

8:今昔物語 福永武彦 訳
宇治拾遺物語 町田康 訳 ■新訳
発心集・日本霊異記 伊藤比呂美 訳 ■新訳

9:平家物語 古川日出男 訳 ■新訳

10:能・狂言 岡田利規 訳 ■新訳
説経節 伊藤比呂美 訳 ■新訳
曾根崎心中 いとうせいこう 訳 ■新訳
女殺油地獄 桜庭一樹 訳 ■新訳
仮名手本忠臣蔵 松井今朝子 訳 ■新訳
菅原伝授手習鑑 三浦しをん 訳 ■新訳
義経千本桜 いしいしんじ 訳 ■新訳

11:好色一代男 島田雅彦 訳 ■新訳
雨月物語 円城塔 訳 ■新訳
通言総籬 いとうせいこう 訳 ■新訳
春色梅児誉美 島本理生 訳 ■新訳

12:松尾芭蕉 おくの細道 松浦寿輝 選・訳 ■新訳
与謝蕪村 辻原登 選 ■新釈
小林一茶 長谷川櫂 選 ■新釈
とくとく歌仙 丸谷才一 他

13:夏目漱石 三四郎
森鷗外 青年
樋口一葉 たけくらべ 川上未映子 訳 ■新訳


残りはダ・ヴィンチNews http://ddnavi.com/news/194687/にて
2015.07.05 Sun | Books| 0 track backs,
芸術関係、超おすすめの一冊
いい本に巡り合った。

オールド・マスターズいわゆる古典的大御所画家たちの絵を、
「色彩」という切り口で語る1冊だ。

写真 2 (57)


フランス語の本なので、Lumière (光)の説明から入る。

古代は光には2種類あると考えられていた。
ひとつはLux、もうひとつはLumen。
それぞれ光源と、反射によって結ばれできた光を指した・・・

そこから様々な技法、色という観点から絵を論じるページなど。
わくわくする。

こちらは、キアロスクーロ(明暗法)の説明

写真 1 (61)


ペーパーバックよりも大きい縦20㎝。
なにより光沢紙の質もよく、色もキレイに出ていて絵がふんだんに散りばめられている。
330ページ。

1日数ページずつでも読み進めればいいと思う。

「春の戴冠」、まだ読み終えていない。

写真 3 (37)


2015.07.02 Thu | Books| 0 track backs,
古代の筆跡: 小堀遠州、藤原定家
先日触れた国立公文書の「恋する王朝」展では、
平安時代の有名人の筆跡を目にすることができる。


城の再建を手掛け、また作庭家、茶人としても有名な小堀遠州の自筆「伊勢物語」。
左右におおらかに広がる文字が印象的。


IMG_6328.jpg


「白玉かなにそと人のとひしとき つゆとこたへてきえなまし物を」

IMG_6328a.jpg



藤原定家が孫娘のために写した伊勢物語を、さらに模写したものがこちら。
定家様という独特の筆記体を模しているそう。

IMG_6329.jpg


いわゆる丸文字だったようだ、定家。

IMG_6329b.jpg



さらに、物語の中に出てくる物語、という視点の展示もある。

こちらは源氏物語。
挿話の中で、「かぐや姫」に触れている。
物語創作順序を知る手がかりとなる。
かぐや姫を軸に展開する「竹取物語」は現在最古の物語とされている。

IMG_6291a.jpg


源氏物語中の、「かぐや姫」の文字。

IMG_6291_201506150823027de.jpg


こちらが「竹取物語」の写本。ただし写年は不明。

IMG_6303.jpg


「更級日記」でもそれ以前に編纂された物語に触れている部分があり、その解説もある。

(更級日記の主人公が源氏物語にあこがれるくだりは、高校生時代共感をもって読んだ記憶あり。)

古代ロマンに浸れるひととき。

国立公文書
http://www.archives.go.jp/exhibition/
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2015.06.15 Mon | Books| 0 track backs,
『安土往還記』(辻邦生)を読んだ元イタリア大使の “とある問い合わせ”
辻邦生氏の歴史小説は圧巻だ。
時代考証が綿密で、インターネットもない時代、よくもあそこまで熟知したものだ、と思わずうなる。

事実とフィクションの境目はなく ミクロのレベルで融合していて、
正直 ときおり面食らうほどだ。


実際、著書の一つ『安土往還記』には、こんな逸話がある。

本書の設定は、著者が古文書をもとに史実を明かす(これもフィクション)、というもので、それにだまされ
その現物の古文書はどうしたら手に入るか?と問い合わせがきたというのだ。

以下、辻邦生全集第一巻『安土往還記』 解題から:

『安土往還記』が発表されて間もなく、ある年配の方から電話があった。自分はイタリア大使を務めたことがあり、イタリア語も読めるので、あなたの訳された古文書の原物を直接に読みたいが、それにはどうしたらよいか、という問い合わせであった。



いや、そう勘違いするのも無理はない。
導入部には、固有名詞が散りばめられ、虚構に”信憑性”がぎっしり付与されている。

引用してみると、こんな感じ。


私が以下に訳を試みるのは、南仏ロデス市の著名な蔵書家C・ルジェース氏の書庫で発見された古写本の最後に、別紙で裏打ちされて綴じこまれている、発信者自筆と思われるかなり長文の書簡断片である。原文はイタリア語であるが、私はC・ルジエース氏の仏訳の訳詩に基づいて日本訳を行った。古写本そのものについてはすでに二、三の研究が発表されているが、その前半150葉ほどは、1931年にドロテウス・シリングによって発見されたルイス・フロイスの『日本史』古写本(サルダ古写本A)に閉じ込まれているディエゴ・デ・メスキータのポルトガル文紀行『1582年に日本からローマへ赴いた日本施設に関する記録』の異筆写本である。




こんな素敵なエピソードをもつ『安土往還記』をいつか読んでみたいとは思うものの、
まだ辻氏の『春の戴冠』(史実をもとに間隙をクリエーションで埋めたボッティチェリの生涯)
を読み終えていない。

ちびりちびりと読み進める中、
先日は、ダンテの『神曲』の挿絵をボッティチェリが描いた下りが登場した。
ああ、5月に訪れた印刷博物館で見た、あの挿絵のことだ、、
と、思わず身震いした。

フィレンツェの息遣い溢れるめくるめくストーリーの中に練り込まれた
きめの細かい歴史的事実。

ボッティチェリはじめ登場人物の言葉や仕草がイキイキと描写され、
絶頂を極め、転落の影におびえるフィレンツェの姿が鮮やかに浮かび上がる。


もうフィクションかどうかなんてどうでもいい。
ただひたすら、壮大な絵巻物に酔いしれている。





2015.06.03 Wed | Books| 0 track backs,
「九年前の祈り」 小野 正嗣
最新の芥川賞作品「九年前の祈り(小野 正嗣)を読んだ。


現在と過去が交錯し、いきつ戻りつ。

相互に関連性をもつさまざまな織り糸が乱れ展開していくさまは、
どこかプルーストの「失われた時を求めて」を彷彿とさせる。

閉鎖的な地域の濃密な人間関係の中で
主人公と息子の関係と、
みっちゃん姉と息子の関係がパラレルに浮かび上がる。
時間感覚の縦横無尽さのせいでその共鳴効果はやわらげられてはいるのだが。

プルーストの無意識の記憶や、
あるいは須賀敦子さんの一部の作品のように連想ゲームが展開し、
奔放に意識が飛びつつも、
祈りにつながるようなある種の一貫性(Coherence)を保持している。
全体を包み込む地域性が、それに一役買っていることは言うまでもない。


徐々に人物像・背景を浮かび上がらせる手法にも「失われた・・・」との類似性を感じさせつつ、
独特のペーソスがある。
このスタイルで突き進むのか、気になる作家だ。



2015.05.27 Wed | Books| 0 track backs,
「指の骨」 高橋 弘希 (著) 感想
高橋 弘希 (著)「指の骨 」を読んだ。
日経新聞書評に惹かれて。
芥川賞候補作だ。

本のタイトルにより読者を惹きつけようとする下心を一切見限ったその大胆さが
気に入って、手にとってみた。
とはいえ、日経書評がなければ見向きもしなかったであろうとは思う。
タイトルに加え、内容も戦争ものなのだから。

描写の迫真性は、聞きしに勝るものだった。
改めて著者の年齢を確かめてしまったほどだ。
35歳にして、この自信に満ちた情景、心理描写。
舌を巻いた。

ただ後半、グロテスクさが増してからは、やや引いてしまった。
筆力に頼った描き方ばかりが目立ち、情感を見出せなくなってしまった。
これは個人の問題であり、本に何を求めるかなのだけど
絵画にしても、心地よいものを好む傾向がある私には
後半部分は沁みいらなかった。

私のように靉(あいみつ)の絵が苦手な人には
すんなり受け入れられないかもしれない。


http://www.amazon.co.jp/dp/4103370718
2015.05.14 Thu | Books| 0 track backs,
芥川賞作家 小野正嗣さんの講演会
週末東大で開催された芥川賞作家 小野正嗣さんの講演会。

作品から受ける印象と、作家のパーソナリティの間のギャップがそこはかとなく大きくて、
(それは、開始前の挨拶でも、触れられたことではあったのだけれど)
初めて話を聞く人はみな目が点となり、
勝手知ったる人たちは、うんうん、今日も快調、そんな笑顔で見守っていた。


東大学部長を簡単にコケにして笑ってしまうような場面も多々あり、
おちゃらけ満載で人を食っている。
怖いものなしの不遜さをチラリちらりと見せつつも、
底抜けに明るく陽気で、誰もが吸い寄せられるようなチャーミングさを兼ね備え、
そうした美点ですべてが許されてしまうような不思議な人柄だ。

Q&Aのコーナーでは、緩さと真剣さが素早く交互に頭をもたげ、
理解しつつ瞬時に言葉にできる。
つまりインプットとアウトプットがほとんど即時で、
聞いた言葉をどんどん自己の中で発展させることができる。
そしてそれらがどんどん頭の中に蓄積されていく感じ。


大分の過疎の集落で育ち、行き交う人皆知り合い、
書店に行くには山を越えて1時間、そんな環境の中、
学校の図書館を利用して本を読んだという異色のバックグラウンド。
濃厚な人付き合いが人類愛をはぐくみ、環境が激変してもそれを保ち続けたような人。


どのようにして本を書くか、という質問に対し、
まずイメージが浮かび、それを言葉に紡いでいくとのこと。

文学は人生の遊び(潤滑油のような意味で)という発言もあり、
いわゆる「ごっこ」の延長であると。
文章を書くときは、自分と書かれる対象物の中間に位置しているという。

私情を超えて、己を徹底的にニュートラルな存在に変容させつつ書くからこそ、
自身のキャラクターがにじまない作品が生まれるのだろうか。

ふわりとした笑顔で周囲の空気をまろやかにしつつも、
空恐ろしい才気を放っていた。

2015.05.11 Mon | Books| 0 track backs,
絲山 秋子「北緯14度」 感想
講談社文庫では、「北緯14度 セネガルでの2ヵ月」というタイトルになったらしいこの本。

太鼓を聞くため、という大義名分のもと、
セネガルに行った著者の冒険譚、のはずだったが、
現地到着早々、ガイド手配などすっかりされていて、
いきなり編集者お抱え旅行と判明し、
そんなお仕着せはもはや冒険ではありえない。
ハッキリ言ってセネガルまで行く必要はなかった。


お膳立ての上に乗っかって敢えて危険な場所に行って、デンジャラス!と叫んでも
その後の展開がスリリングになればなるほど、白けてしまう。


フランス語が徐々に通じるようになり、
コミュニケーションができるようになりました、なんていうのは威張れることではなく、
若い頃、フランス語を習っていたハズの著者が、最初から喋れなかったことが、むしろガッカリだ。

イタリア語を習ったことのない私ですら、イタリアに行けば喋るよう努力する。
言葉が通じて喜ぶさまに、感動はない。


むろん、現地の人との気安いつながりぶりは絲山さんならでは、と思う。

東京の下町の長屋での2ヵ月(例えば)であれば、
どんなに痛快な物語になっただっただろう。



北緯14度 (100周年書き下ろし)北緯14度 (100周年書き下ろし)
(2008/11/21)
絲山 秋子

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2015.03.15 Sun | Books| 0 track backs,
絲山 秋子「沖で待つ」読後感
友人お勧めの1冊。
絲山秋子著「沖で待つ」。
2005年の芥川賞受賞作。


入社・新人・同僚・失敗・団結・・・
会社1年目の凝縮した日々が思い起こされた。

会社独特の専門用語も散りばめられて、
業種が違うからもちろんそれらの用語は初耳だったりするのだけど、
私にも、会社に入った頃、初めて遭遇した言葉が、ざくざくあった。

「ご査収下さい」、「ASAP (As soon as possible) 」、「LC(Letter of Credit信用状」、「Letter of Intent」「B/L」・・
もっともっと、たくさんあった。

人生最大のとまどいを感じた時期だから、
周囲の光景や仲間意識や仕事内容が微細に心に刻まれている。

数年すると、それらはルーティンとなり、新鮮味を失うとともに思い出は希釈されていく。
その前の、うんと濃い、太枠で囲まれたような一時期が
まざまざと蘇った。
この小説を読んで。


冒頭の友人のメールには、新聞で読んだ記事のことも書かれていた。

「元カレ」「元カノ」「元同僚」とかの言葉はあるけれど、「元友人」という言葉はない。
お互いの関係はそのままだから、間隔が空いても、すっとその頃に戻れるのだ。
そんな内容だったそう。

深く頷いた。
友達は廃れない。
そして、特殊な絆で結ばれた1年目の同期は、「同僚」でなく「友人」の部類に入ると思う。


ちなみにその彼女、課は違ったけど、会社の同じ部の同期で、共にもがいた仲間なのだった。



沖で待つ (文春文庫)沖で待つ (文春文庫)
(2009/02)
絲山 秋子

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2015.03.13 Fri | Books| 0 track backs,
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