日常風景 * 写真・文章 Copyright@”Mas Ciclismo Diary”
古代の筆跡: 小堀遠州、藤原定家
先日触れた国立公文書の「恋する王朝」展では、
平安時代の有名人の筆跡を目にすることができる。


城の再建を手掛け、また作庭家、茶人としても有名な小堀遠州の自筆「伊勢物語」。
左右におおらかに広がる文字が印象的。


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「白玉かなにそと人のとひしとき つゆとこたへてきえなまし物を」

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藤原定家が孫娘のために写した伊勢物語を、さらに模写したものがこちら。
定家様という独特の筆記体を模しているそう。

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いわゆる丸文字だったようだ、定家。

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さらに、物語の中に出てくる物語、という視点の展示もある。

こちらは源氏物語。
挿話の中で、「かぐや姫」に触れている。
物語創作順序を知る手がかりとなる。
かぐや姫を軸に展開する「竹取物語」は現在最古の物語とされている。

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源氏物語中の、「かぐや姫」の文字。

IMG_6291_201506150823027de.jpg


こちらが「竹取物語」の写本。ただし写年は不明。

IMG_6303.jpg


「更級日記」でもそれ以前に編纂された物語に触れている部分があり、その解説もある。

(更級日記の主人公が源氏物語にあこがれるくだりは、高校生時代共感をもって読んだ記憶あり。)

古代ロマンに浸れるひととき。

国立公文書
http://www.archives.go.jp/exhibition/
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2015.06.15 Mon | Books| 0 track backs,
『安土往還記』(辻邦生)を読んだ元イタリア大使の “とある問い合わせ”
辻邦生氏の歴史小説は圧巻だ。
時代考証が綿密で、インターネットもない時代、よくもあそこまで熟知したものだ、と思わずうなる。

事実とフィクションの境目はなく ミクロのレベルで融合していて、
正直 ときおり面食らうほどだ。


実際、著書の一つ『安土往還記』には、こんな逸話がある。

本書の設定は、著者が古文書をもとに史実を明かす(これもフィクション)、というもので、それにだまされ
その現物の古文書はどうしたら手に入るか?と問い合わせがきたというのだ。

以下、辻邦生全集第一巻『安土往還記』 解題から:

『安土往還記』が発表されて間もなく、ある年配の方から電話があった。自分はイタリア大使を務めたことがあり、イタリア語も読めるので、あなたの訳された古文書の原物を直接に読みたいが、それにはどうしたらよいか、という問い合わせであった。



いや、そう勘違いするのも無理はない。
導入部には、固有名詞が散りばめられ、虚構に”信憑性”がぎっしり付与されている。

引用してみると、こんな感じ。


私が以下に訳を試みるのは、南仏ロデス市の著名な蔵書家C・ルジェース氏の書庫で発見された古写本の最後に、別紙で裏打ちされて綴じこまれている、発信者自筆と思われるかなり長文の書簡断片である。原文はイタリア語であるが、私はC・ルジエース氏の仏訳の訳詩に基づいて日本訳を行った。古写本そのものについてはすでに二、三の研究が発表されているが、その前半150葉ほどは、1931年にドロテウス・シリングによって発見されたルイス・フロイスの『日本史』古写本(サルダ古写本A)に閉じ込まれているディエゴ・デ・メスキータのポルトガル文紀行『1582年に日本からローマへ赴いた日本施設に関する記録』の異筆写本である。




こんな素敵なエピソードをもつ『安土往還記』をいつか読んでみたいとは思うものの、
まだ辻氏の『春の戴冠』(史実をもとに間隙をクリエーションで埋めたボッティチェリの生涯)
を読み終えていない。

ちびりちびりと読み進める中、
先日は、ダンテの『神曲』の挿絵をボッティチェリが描いた下りが登場した。
ああ、5月に訪れた印刷博物館で見た、あの挿絵のことだ、、
と、思わず身震いした。

フィレンツェの息遣い溢れるめくるめくストーリーの中に練り込まれた
きめの細かい歴史的事実。

ボッティチェリはじめ登場人物の言葉や仕草がイキイキと描写され、
絶頂を極め、転落の影におびえるフィレンツェの姿が鮮やかに浮かび上がる。


もうフィクションかどうかなんてどうでもいい。
ただひたすら、壮大な絵巻物に酔いしれている。





2015.06.03 Wed | Books| 0 track backs,
「九年前の祈り」 小野 正嗣
最新の芥川賞作品「九年前の祈り(小野 正嗣)を読んだ。


現在と過去が交錯し、いきつ戻りつ。

相互に関連性をもつさまざまな織り糸が乱れ展開していくさまは、
どこかプルーストの「失われた時を求めて」を彷彿とさせる。

閉鎖的な地域の濃密な人間関係の中で
主人公と息子の関係と、
みっちゃん姉と息子の関係がパラレルに浮かび上がる。
時間感覚の縦横無尽さのせいでその共鳴効果はやわらげられてはいるのだが。

プルーストの無意識の記憶や、
あるいは須賀敦子さんの一部の作品のように連想ゲームが展開し、
奔放に意識が飛びつつも、
祈りにつながるようなある種の一貫性(Coherence)を保持している。
全体を包み込む地域性が、それに一役買っていることは言うまでもない。


徐々に人物像・背景を浮かび上がらせる手法にも「失われた・・・」との類似性を感じさせつつ、
独特のペーソスがある。
このスタイルで突き進むのか、気になる作家だ。



2015.05.27 Wed | Books| 0 track backs,
「指の骨」 高橋 弘希 (著) 感想
高橋 弘希 (著)「指の骨 」を読んだ。
日経新聞書評に惹かれて。
芥川賞候補作だ。

本のタイトルにより読者を惹きつけようとする下心を一切見限ったその大胆さが
気に入って、手にとってみた。
とはいえ、日経書評がなければ見向きもしなかったであろうとは思う。
タイトルに加え、内容も戦争ものなのだから。

描写の迫真性は、聞きしに勝るものだった。
改めて著者の年齢を確かめてしまったほどだ。
35歳にして、この自信に満ちた情景、心理描写。
舌を巻いた。

ただ後半、グロテスクさが増してからは、やや引いてしまった。
筆力に頼った描き方ばかりが目立ち、情感を見出せなくなってしまった。
これは個人の問題であり、本に何を求めるかなのだけど
絵画にしても、心地よいものを好む傾向がある私には
後半部分は沁みいらなかった。

私のように靉(あいみつ)の絵が苦手な人には
すんなり受け入れられないかもしれない。


http://www.amazon.co.jp/dp/4103370718
2015.05.14 Thu | Books| 0 track backs,
芥川賞作家 小野正嗣さんの講演会
週末東大で開催された芥川賞作家 小野正嗣さんの講演会。

作品から受ける印象と、作家のパーソナリティの間のギャップがそこはかとなく大きくて、
(それは、開始前の挨拶でも、触れられたことではあったのだけれど)
初めて話を聞く人はみな目が点となり、
勝手知ったる人たちは、うんうん、今日も快調、そんな笑顔で見守っていた。


東大学部長を簡単にコケにして笑ってしまうような場面も多々あり、
おちゃらけ満載で人を食っている。
怖いものなしの不遜さをチラリちらりと見せつつも、
底抜けに明るく陽気で、誰もが吸い寄せられるようなチャーミングさを兼ね備え、
そうした美点ですべてが許されてしまうような不思議な人柄だ。

Q&Aのコーナーでは、緩さと真剣さが素早く交互に頭をもたげ、
理解しつつ瞬時に言葉にできる。
つまりインプットとアウトプットがほとんど即時で、
聞いた言葉をどんどん自己の中で発展させることができる。
そしてそれらがどんどん頭の中に蓄積されていく感じ。


大分の過疎の集落で育ち、行き交う人皆知り合い、
書店に行くには山を越えて1時間、そんな環境の中、
学校の図書館を利用して本を読んだという異色のバックグラウンド。
濃厚な人付き合いが人類愛をはぐくみ、環境が激変してもそれを保ち続けたような人。


どのようにして本を書くか、という質問に対し、
まずイメージが浮かび、それを言葉に紡いでいくとのこと。

文学は人生の遊び(潤滑油のような意味で)という発言もあり、
いわゆる「ごっこ」の延長であると。
文章を書くときは、自分と書かれる対象物の中間に位置しているという。

私情を超えて、己を徹底的にニュートラルな存在に変容させつつ書くからこそ、
自身のキャラクターがにじまない作品が生まれるのだろうか。

ふわりとした笑顔で周囲の空気をまろやかにしつつも、
空恐ろしい才気を放っていた。

2015.05.11 Mon | Books| 0 track backs,
絲山 秋子「北緯14度」 感想
講談社文庫では、「北緯14度 セネガルでの2ヵ月」というタイトルになったらしいこの本。

太鼓を聞くため、という大義名分のもと、
セネガルに行った著者の冒険譚、のはずだったが、
現地到着早々、ガイド手配などすっかりされていて、
いきなり編集者お抱え旅行と判明し、
そんなお仕着せはもはや冒険ではありえない。
ハッキリ言ってセネガルまで行く必要はなかった。


お膳立ての上に乗っかって敢えて危険な場所に行って、デンジャラス!と叫んでも
その後の展開がスリリングになればなるほど、白けてしまう。


フランス語が徐々に通じるようになり、
コミュニケーションができるようになりました、なんていうのは威張れることではなく、
若い頃、フランス語を習っていたハズの著者が、最初から喋れなかったことが、むしろガッカリだ。

イタリア語を習ったことのない私ですら、イタリアに行けば喋るよう努力する。
言葉が通じて喜ぶさまに、感動はない。


むろん、現地の人との気安いつながりぶりは絲山さんならでは、と思う。

東京の下町の長屋での2ヵ月(例えば)であれば、
どんなに痛快な物語になっただっただろう。



北緯14度 (100周年書き下ろし)北緯14度 (100周年書き下ろし)
(2008/11/21)
絲山 秋子

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2015.03.15 Sun | Books| 0 track backs,
絲山 秋子「沖で待つ」読後感
友人お勧めの1冊。
絲山秋子著「沖で待つ」。
2005年の芥川賞受賞作。


入社・新人・同僚・失敗・団結・・・
会社1年目の凝縮した日々が思い起こされた。

会社独特の専門用語も散りばめられて、
業種が違うからもちろんそれらの用語は初耳だったりするのだけど、
私にも、会社に入った頃、初めて遭遇した言葉が、ざくざくあった。

「ご査収下さい」、「ASAP (As soon as possible) 」、「LC(Letter of Credit信用状」、「Letter of Intent」「B/L」・・
もっともっと、たくさんあった。

人生最大のとまどいを感じた時期だから、
周囲の光景や仲間意識や仕事内容が微細に心に刻まれている。

数年すると、それらはルーティンとなり、新鮮味を失うとともに思い出は希釈されていく。
その前の、うんと濃い、太枠で囲まれたような一時期が
まざまざと蘇った。
この小説を読んで。


冒頭の友人のメールには、新聞で読んだ記事のことも書かれていた。

「元カレ」「元カノ」「元同僚」とかの言葉はあるけれど、「元友人」という言葉はない。
お互いの関係はそのままだから、間隔が空いても、すっとその頃に戻れるのだ。
そんな内容だったそう。

深く頷いた。
友達は廃れない。
そして、特殊な絆で結ばれた1年目の同期は、「同僚」でなく「友人」の部類に入ると思う。


ちなみにその彼女、課は違ったけど、会社の同じ部の同期で、共にもがいた仲間なのだった。



沖で待つ (文春文庫)沖で待つ (文春文庫)
(2009/02)
絲山 秋子

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2015.03.13 Fri | Books| 0 track backs,
「チクリッシモ」2015年3月6日発売
3月6日発売のチクリッシモVol.44。

中面の画像データが届いたのを受けて、改めて宣伝など:


年初号にふさわしく、
今年1年の観戦に役立ち、
10周年を記念して10年間を振り返る、
そんな内容になっています。



CIC007.jpgCIC009.jpg
レース紹介や10年の間のチーム変遷なども
付CIC060CIC036.jpg
永井孝樹さんの連載スタート!そして毎年恒例の選手名鑑
CIC090_1c.jpg付CIC002

インデックスも工夫されています
UCIワールドチームだけでなく、
例えば伸び盛りのプロコン、コロンビアチームも。
若い逸材に注目してみました。大化け、あるかな?
付CIC050付CIC040




CICLISSIMO (チクリッシモ) No.44 2015年4月号 (サイクルスポーツ2015年4月号増刊)CICLISSIMO (チクリッシモ) No.44 2015年4月号 (サイクルスポーツ2015年4月号増刊)
(2015/03/06)
砂田弓弦

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2015.03.06 Fri | Books| 0 track backs,
『すべて真夜中の恋人たち』: 川上 未映子 読後感
以前仕事で取引があったAさんから教えてもらった一冊。
モノトーンな内容、後半じわじわくる・・・といった話を聞いていた。


人生を見渡すと、ドラマチックでなく、淡々と過ぎていく日々の方が圧倒的に多い。
もどかしい思いを抱えつつどうしようもない、そんな物語になりにくい日常生活が
静かにつづられている。


そしてその不思議さに魅せられた光。
きらめく光のような恋を感じ、
そしてあっという間に消えた後はもうその残像すら残さない
瞬く間に途切れるエンディング。

主人公・冬子はまた、いつものように校正の仕事を地道に続けていくのだろう。
何が見つかるのか、いつ見つかるともわからない
大海原の中で異物探しをするかのような地道で、でも彼女にピッタリの仕事を。



すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)すべて真夜中の恋人たち (講談社文庫)
(2014/10/15)
川上 未映子

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ちなみにAさんの読書スピードがすごすぎて、
ついていけない。

私は電車の中で、ちびりちびり読むせいか
読了までに2週間以上かかった。
2015.02.19 Thu | Books| 0 track backs,
向田邦子文庫(実践女子大学内)一般公開 ・残された留守番電話
調べものをしていて、ふとNHK解説アーカイブスのこんな記事に遭遇した。

視点・論点 「向田邦子の謎」。
タイトルどおり、そこには、説明不能なミステリーが書かれている。


・・・と、その話を始める前に、向田邦子文庫の話に触れなくては。

実践女子大学 日野キャンパスにあった向田邦子文庫は、去年渋谷キャンパスに移転した。


実践女子大学の前身・実践女子専門学校出身の向田邦子さんの書斎にあったものたちがそこに移され、
さあ、原稿書くぞ、という体制そのままの空気が残されている

向田さんの死が、いかに唐突だったかがうかがわれる。


机の脇に積み上げられた 夥しい数の白い原稿用紙。
白い、白紙のままの・・・

片目が入るのを待ち受ける達磨のように、
主によって文字を入れられるのを、無言で今も待っている。

原稿用紙のマス目の形は正方形だけでなく、
ちょっと見慣れない、横が広い長方形のものもある。
なにかこだわりをもって、使い分けたのだろうか。

文字の書かれたものも、2枚だけ机の上に置かれ、
勢いのある素早い線がピチピチと紙の上で跳ねていた。


削りかすがいっぱい詰まった鉛筆削り。
特徴的な葉巻入れ。

数々の蔵書。
近藤 紘一さんの「バンコクの妻と娘」があった。
ヘミングウェイの「移動祝祭日」も。


そしてー
事故当時、留守録モードになったままだったという電話。

うわあ、でかい、思わず驚くような
ごっつい留守番電話機能装置がついている。

亡くなったのは1981年。
当時は内蔵型ではなかったのか。
机の上の凍結された「時」に、しばし見入る。

脇には、向田さんと親しかった誰かが当時を振り返って書いた記事の切り抜き。


読んでみる :
  当時、この電話番号を回した人たくさんいたに違いない。
  ある者は、留守録になった向田さんの柔らかい声を聞き、
  ああやっぱり、、と言って切り、
  知らなかった者は、いないなぁ、と思って切った後、
  ニュースを聞いて慌ててまたこの番号にかけなおしたに違いない。。。

そんな感じの内容だった。

そう、自宅に置かれた留守電は、その日録音モードになっていて
数々の人たちが、機械を経由した魂のない声をむなしく聞いたそうなのだ。



そして、冒頭のNHKアーカイブス。

それによると、「お辞儀」というエッセーには、飛行機と留守録の2つが同時に登場するそうだ。
そこには、”留守番電話の珍談奇談”が描かれ、
母が乗った飛行機に向かって、『どうか落ちないで下さい』と本の中の向田さんが呟いている。


自身の行く末を暗示したかのような内容。

向田文庫で見た、机の上を占領していた留守電装置の大きな塊は、
全てのナゾをひっそりと抱えたまま、今も渋谷のビルの片隅に息づいている。



向田邦子文庫
http://www.jissen.ac.jp/library/info_collection/book_collection/
入場無料とはいえ、平日ONLYの開館。
ハードルが結構高い。
場所も、恵比寿と渋谷の中間あたり。
私は恵比寿で用を終えた後、渋谷に移動するのに徒歩で移動し、その途中寄ってきた。
中は小さいので、15分もあれば大丈夫。

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2015.02.11 Wed | Books| 0 track backs,
「捏造の科学者 STAP細胞事件」(須田 桃子) 感想
「捏造の科学者 STAP細胞事件」(須田 桃子)読了。

STAP細胞という前代未聞の騒動を、抑えたトーンで語っていく様子が印象的だった。

驚くのは、記事という表に出る記録以外に集められた膨大な情報量。
更に、いつだれが、どうして入手した情報なのか、極めて細やかに
記録するその緻密さ。

この事件の中心人物が5年間に書き留めた2冊の大学ノートのお寒い状況とは
鮮やかな対比をなしていた。


この本を手にしたのは、ツイッターのつぶやきがキッカケだった。
すぐに図書館予約を入れたらすんなり手元に届いた。

他の本を読んでいたため、返却期限が迫り、慌てて読んだのだが、あっという間に読んでしまった。
次々興味が湧いて自然にテンポアップする感じ。


内容はというと、STAP細胞のスキャンダルを事を荒立てて
スクープ・スキャンダル風に語るのでは全くなくて、
地道に積み上げた情報を整理していく手法。


なんといっても、記者の人たちの取材現場が垣間見れて面白い。

どうやって情報を取るか、引き出しの多さがカギになるだけでなく、
笹井氏、若山氏など一流の科学者たちと渡り合えるだけの理解度がなくては
ここまでの取材は不可能だ。


さらに、うがった見方や、ネガティブな観点で取材を進めるわけでなく、
あくまで事実として認定できるか、ペンディングにすべきか、
それらを見極めつつ、結論の出ないものはニュートラルなままにして
独断で片付けない姿勢が随所に見られた。

(須田記者は、STAP細胞の存在自体は、データ捏造とは別にある程度の時期までは信じていたようだけど。)


故人となってしまったけれど、笹井氏のみならず理研の学者さんたち、若山教授らが、
素早く取材メールに長文の回答を寄せるあたり、
科学者の使命感も感じられるし、
記者さんの信頼度もうかがわれる。

渦中の女性からは、一切回答がなかったので、その人の目線で書かれる部分はないけれど、
(個人攻撃にならないよう、当初はとくに気を使った様子もうかがわれる)
理研側の責任者たちからは多くの回答を受け取り、その実文がふんだんに盛り込まれている。


多忙なハズなのに、真摯に回答をよこす笹井さんのサービス精神には驚く。
その数40通。
須田記者も、必ず先方を思いやる文章を盛り込むなど、この上ない人間性が感じられる。


かなり筋の悪い事件だったという印象も深まった。
中心人物の女性は、調査で依頼された資料を数々出さないなど、大胆な無視ぶりが目を引き、
小心者ではとてもできない態度。かなりの大物だ。

コピペだらけの大学の博士課程の論文も、「ドラフトを出してしまった」、と言い訳したものの、
では最終版の提出を、というリクエストを長期間無視し、
やっと出したものは、前日にちゃちゃっと加筆されたもの。
場当たり的な言い訳も目立つ。


その一方、笹井氏のみならず、早々たる学者さんたちの洗脳っぷりが痛々しい。

真偽を問う必要を感じないほど、ぞっこん信じ切っていた様子が、
本人たちのメールから溢れんばかりに感じられる。
次々不審点が出てもなお、信奉し続けているその怖さ。

恐らく、STAP細胞なる神話、およびその神話のミューズを信じたがっていた、
もうそれは理屈でなく、一種熱に浮かされたお祭りだった、
そんな風に宴の後には感じられる。



捏造の科学者 STAP細胞事件捏造の科学者 STAP細胞事件
(2015/01/07)
須田 桃子

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2015.02.03 Tue | Books| 0 track backs,
イニシエーションラブ / 乾くるみ
 最後から2行目で突如ミステリーになる本。
◆ だけど、最初から核心部分を正しく理解して読んだ人には全くミステリーにならないまま終わってしまう
◆ ネタバレに最初から気づいてしまった私の悲劇


図書館から「本が到着しました」と連絡があった。
タイトルを見ると、身に覚えがない。

というか、書評やネットの評判などでよさげだと、速攻で予約を入れたりするので、
最近そうして予約を入れた数冊のうちのどれかだろうと思う。

タイトルからして「イニシエーションラブ」だなんて
およそ私らしからぬ本だなあと思いつつめくってみる。

予想以上に女子学生向きな感じで、やっぱり私っぽくないチョイスだという確信。
但し、ミステリーぽくないけど実はミステリーだというので
1日で読んでしまった。

最後まで読んで、愕然とする。
私はミステリーの核心部分を最初から認識して最後まで読んでしまったのだ。

だから、最後の2行を読んでも、どんでん返しにならず、え?わたし、そのつもりで読んでいたのに、
となってしまったのだ。

ということで、騙されずに読んだ人は、結局最後の2行を読んでもミステリーにならずじまいで終わってしまう、
そんな本なのだった。



イニシエーション・ラブ (文春文庫)イニシエーション・ラブ (文春文庫)
(2007/04/10)
乾 くるみ

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以下ちょっとネタバレ:


私が、なぜ騙されなかったか?


2つに区切られたストーリーが、Side-AとSide-Bになっていたためだ。

だから、私は納得づくめで、つまりそのつもりで読み進めた。
(そうやって気づきながら読むと、まったく自然な流れになっている。)

私のように、ネタバレを知りつつ、それがネタバレの核心部と知らずに読んだ人には、なんの結末もない物語になってしまうワケだ。


残念。からくりに気づかずに、騙されつつ読んで入れば、盛り上がったハズなのに、と。
2015.01.24 Sat | Books| 0 track backs,
「ジヴェルニーの食卓」、「春の戴冠」 ・・ 史実の合間をクリエートする小説
上記の2冊、「ジヴェルニーの食卓」(原田マハさん)、「春の戴冠」(辻邦生)は、
ともに史実の隙間をフィクションで埋めつつ創られた小説。

前者はクロード・モネを描いたもの。
後者は、ボッティチェリの生涯。
(まだ上巻が読み終わらない・泣)


先日、その原田さんの相変わらずチャーミングなトークを聞いたのだが、
やはり厳然と存在した史実にフィクションを加えることに躊躇いはあったようだ。

そうしたフィクションにに相対する時の心構えなどを披露されていた。
トークだからこその営業秘密披露もあったであろうから、
詳しくはここでは書かないけれど、いずれにせよ、対象人物への惜しみない愛は
作品を読むにつけ感じられる。


一方、後者の辻氏の作品も、
読み進むほどに驚くのだが、かなり細部にわたって詳細な史実が盛り込まれている。
事実を脚色するというより、知られていない部分に手を付けるというスタイルで、
迫真の歴史小説が生み出されている。

余りに繊細な筆づかいのため、
思わず、ノンフィクションなのでは?、と戸惑ってしまうほど。

辻氏のこの本が出版されたのはいまから37年も前の事。
まだ地球の歩き方などない。ネットの存在は言わずもがな。

ここまで綿密によくも調べられたものだ。
今日読んだくだりも、歴史的事実として認識している内容を中心に展開する。
ボッティチェリと画家のリッピ父子との関係は事実と言われている内容そのものだ。

でも隙間には、あらゆる想像が盛り込まれているはずなのだ。
(原田マハさんは、それを、”想像の翼を羽ばたかせる”というキレイな言葉で語られていた。)
でもそうした作為的穴埋めを気づかせない技がそこにある。


これだけの史実を調べるのには随分時間もかかったことだろう。
気が遠くなるような地道な努力があったに違いなく、そんなことをせずに
ネットで検索して、あらゆる情報が簡単に手に入る今の状況が申し訳ない気がする。



ジヴェルニーの食卓ジヴェルニーの食卓
(2013/03/26)
原田 マハ

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春の戴冠春の戴冠
(1996/02)
辻 邦生

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2014.11.25 Tue | Books| 0 track backs,
須賀敦子の世界展 / 神奈川近代文学館
◆ 神奈川近代文学館で充実のとき / 「須賀敦子の世界展」

ここまで大規模の須賀敦子さん関連展示は今後もう望めないのでは?と思わせるほど
周辺の資料をくまなく集めた展示が神奈川近代文学館で開催されている。


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圧巻だったのは、須賀さんの蔵書量の多さ。
和書・イタリア語、英語の本などが、読みこまれた跡をうかがわせつつ大量に置かれていた。

時折参照していた書には山のような付箋紙が付されていた。

一生のうち、一体どれだけの本を頭にたたき込まれたのだろう。
しかも軽い内容の本ではない。深く難解そうなものばかり。
くらくらしそう。
ものすごい集中力。

ネットに割く時間を全て読書にあてたとしても、
これだけのものを読みこなすなんて不可能、と断言できる。


さらに気づかされたのは、61歳で作家デビューされる前の”執筆”量。

日の目を見たイタリア語・日本語の翻訳だけでなく、
出版のめどを立てるために行った簡易訳、
個人出版の本(「どんぐりのたわごと」)
授業のための手元用資料(ダンテの神曲翻訳まで)、
分厚い束になった卒論(須賀さんの卒論は翻訳だった)。

そして夥しい手紙の数々。
編集者宛であってもビジネスライクではなく、時々の感情、周辺状況などが
盛り込まれており、ぬくもりのある内容だ。


「ミラノ霧の風景」があれほど完璧なかたちで出る前に、
相当な溜めがあったはず、とは思っていたけれど、
やはり須賀さんは、若いころから洪水のように書き綴ってきた人なのだった。

61歳から亡くなる69歳までの間で、出版されたのがわずか5冊というのはやや意外。

つまり大半の本が死後に出版された。
異例といえるけれど、自書が世に出る前にアウトプットされてきた言葉の膨大さを思えば、当然のようにも思われる。



ちなみに上述の「どんぐりのたわごと」は、全15冊が自費出版され、
毎回200人に配布されたそうだ。

その中には聖心女学院で6年後輩の現皇后・美智子様宛も含まれていた。
美智子様は、それらを丁寧に読まれていたそうだ。



これほどまでに充実した展示が可能になったのは、
須賀さん自身も含め、あらゆる人たちが関連の品を大切に保存していたからこそ。

蔵書はイタリア文化会館、東大、フィレンツェ大学などに寄贈されたので
大切に保管されているとしても、
原稿案からちょっとしたメモ書き、アイディアをつづった紙片にいたるまで残されている。
恐らく、これらは自身の血肉になったものという意識があったから?


手紙に関しては、受領者が大切にしまっていた様がうかがわれる。
煌めく宝石のような言葉を残した人からだからこそ、
人々は短いハガキひとつにも敬意を表したと思われる。

更に最近発見された新たな友人あての手紙も初公開されていた。


会場内、そこここでウキウキと踊る文字・活字・本、ゆかりの品々。
心底豊かな展示だった。



p.s.1 ちなみに文字・活字文化の日の10月26日は、入館無料。
さらにくじ引きによる景品付き。
ツーレはレターセット、私はハガキと常設展チケットを頂いた。

P1640663.jpg


p.s.2 唯一の心残りは、本日開催の「須賀敦子の魅力」と題した江國香織さん・湯川豊さんの対談を逃したこと。
気づいたときには満員だった。



P1640514.jpg

***

神奈川近代文学館
須賀敦子の世界展
 2014年10月4日(土)~11月24日(月・振休)
https://www.kanabun.or.jp/te0173.html
https://www.kanabun.or.jp/index.html

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2014.10.26 Sun | Books| 0 track backs,
辻邦生「春の戴冠」
東京都美術館で開催中の「ウフィツィ美術館展 黄金のルネサンス ボッティチェリからブロンヅィーノまで」展
が終わるまでに読み終わるだろうか、辻邦生 著「春の戴冠」。

創造の世界で展開するボッティチェリの生涯。
史実もふんだんに散りばめられた、華やかなりしフィレンツェの壮大な絵巻物。

目下、一大芸術都市への胎動を予感させるくだり。
ただ、2段組みで1000ページ弱という長さで、
読み終えるのはいつのことやら。

目標は一応ウフィッツィ展終了前までに、と思っているのだが。
これ絶対無理。
展覧会会期は12月14日(日)まで。



春の戴冠春の戴冠
(1996/02)
辻 邦生

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2014.10.22 Wed | Books| 0 track backs,
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