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日常風景 * 写真・文章 Copyright@”Mas Ciclismo Diary”
ヴェネチア・トルチェッロ島続き サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂とトリエステのサンジュスト教会
荒野が広がっていたり、栄華のあとの寂しさ漂うトルチェッロ島(Torcello)だけど、作家の須賀敦子さんは、この島にある聖母子像のモザイクに、限りなく慰められた。

世界に名だたる聖母子像を数々目にしてきた彼女がたどり着いた、この世で一番ともいえる癒しの姿がこれだった。

その聖母子像は、サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂(S.Maria Assunta )内にある。写真では左手。
右手のビザンチン様式の建物はサンタ・フォスカ教会(S.Fosca )。

最初、右のポルティコとドームのついた変わった建物の方がサンタ・マリア・アッスンタ大聖堂かと思ったが、左手の地味な方だった。

入り口に入場料3ユーロと書かれている。

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須賀さんの文章を本から引っ張り出してみると:

「しばらくじっとしていると目が暗闇に慣れて、ほのぐらい祭壇のうしろの丸天井のモザイクがうっすらと金色に燦めきはじめた。天使も聖人像もない背景は、ただ、くすんだ金色が夕焼けの海のように広がっているだけだった。それが私には天上の色に思えた。金で埋められた空間の中央と思われるあたりに、しぶい青の衣をまとった長身の聖母が、イコンの表情の幼な子を抱いて立っている。聖母も、イコン独特のきびしい表情につくられていた。その瞬間、それまでに自分が美しいとした多くの聖母像が、しずかな行列をつくって、すっと消えていって、あとに、この金色にかこまれた聖母がひとり、残った。これだけでいい。そう思うと、ねむくなるほどの安心感が私を包んだ。」(「地図のない道」より)


内部は撮影禁止。彼女が癒された黒衣のマリア様の画像はこちらのサイトで見られる(JUMP)

が、「それまでに自分が美しいとした多くの聖母像が、しずかな行列をつくって、すっと消えて」いくほどの感動を「万人に」与えるとは思えない。

夫を亡くして傷が癒えない状況で見たからこそ、その厳粛な姿と静謐な雰囲気に強く打たれたのだろう。

視覚的対象物の印象は、そのときの心理状態に左右されがちなもの。
心象、という言葉はまさにそういうことだ。




以下はちょっと寄り道でトリエステのサンジュスタ教会(Cattedrale di Santa Giusta / Trieste)。
こちらは内部撮影OKなので、ちょっと比較してみたい。

こちらの聖母子も金色の半ドームの中におさまっているが、全体的に装飾的で賑々しい。

一方、トルチェッロの聖母子像は立位で両脇にサン・ミケーレ、サン・ガブリエーレを携えておらず、ひっそりと闇の中に孤高に立っている。

自分自身が孤独感に包まれているとき、どちらの像により救われる思いがするか、一目瞭然、、、そんなふうに思った。

正直、5月の私は高揚感に包まれていたものだから、これらのマリア像よりも、もっと華やかなものにふらふらと誘われた気がする。

たとえばパドヴァの博物館にあった、(5世紀に制作されたというのに)古色蒼然とすることもなく色鮮やかに輝くモザイクに驚き、ウディネのリベルタ広場の美しさに安らぎを感じた。

Cattedrale di Santa Giusta / Trieste
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Cattedrale di Santa Giusta / Trieste
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このサンジュスタ教会、古代ローマ時代の彫刻が正門を飾っていた。
ローマだけではないのだ。遺跡がごろごろしている町は。

パドヴァもしかり、アクイレイアもしかり。いたるところに古代が顔をのぞかせるイタリア。

Cattedrale di Santa Giusta / Trieste
P1560602-2.jpg

トリエステは以上でおしまい。




そして再びトルチェッロ島。
こちらにも、遺物がころがっている。
繁栄期の片鱗を見せつけることで、すたれ、うらぶれた姿がクローズアップする。

明るい5月の陽光の中に、なにやら寂寥感が漂っている。

torcelloP1540250.jpg

このときは悪魔の橋も鐘楼も工事中。そばにはヘミングウェイが投宿した「ロカンダ・チプリアーニ」という宿もあるが、工事現場一帯だったので足を踏み入れず。

下記は聖堂そばにあるホテルレストラン。
閑散としていた。

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ひっそりと静まり返るトルチェッロ。とはいえちょっとマイナー好みの旅行者たちが三々五々訪れていた。
しかし須賀敦子さんが訪れたときは、観光客の姿はもっと少なかったに違いない。

彼女が心惹かれたのは、もしかしたら聖母子像だけではなく、島全体を包み、まるで自分に寄り添ってくれるかのようなこの寂しさだったのかも、、、そんな思いを胸に島を後にした。



地図のない道地図のない道
(1999/10)
須賀 敦子

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2009.09.04 Fri | Travel-Italy| 0 track backs,
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