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日常風景 * 写真・文章 Copyright@”Mas Ciclismo Diary”
再び辻邦夫先展にて:篠沢秀夫教授との相関図、パリの地図、プルーストの落書き
先月日仏会館で開催された辻邦生展が秀逸で、
まだ自分の中で余韻が残っている。


前回のエントリーで書ききれなかったことを、つらつら書いてみようと思う。

まずは展示会場でちょっと意外だったもの:

それは、辻先生の人物相関図。
その中に、先日亡くなった篠沢秀夫教授が含まれていた。
(写真右下)
そうか、おふたりとも学習院大学仏文科だから、この図に不思議はない。
だけどテレビ番組「クイズダービー」と文学者をいきなり結び付ける発想がなくて、
しばしきょとんとしてしまった。


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改めてすごいなぁと思ったのは、辻さんの手仕事ぶりだ。
先日エントリーしたカレンダーなど、さまざまな手作りの小作品が並べられていて、
まめだなぁ、と実感したのだけど、とりわけ感心したのがこの地図だった。

一見何の変哲もない1枚のパリの市街図。
だけどそこには、自分たちが暮らしたパリの界隈図が手書きで加えられていた。


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こんなふうに。
住まいは地図の外にあったらしい。
はみ出して、三角形の街並みを追加している。
でもその書き込み具合いがほかの細密図とたがわないので、まったく気が付かなかった。
地図に添えられていた解説を読むまでは。

きまじめさ、実直さだけでなく、なんとなくお茶目な感じもうかがわれ、
私の中の人物像がどんどん膨らんでいく。


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あー、そしてそして、図書館の貸し出しカードやリクエストシート他に書かれた2人の落書きのやりとりは、見れば見るほど面白かった。
(静粛が求められる図書館で、2人は、落書きで対話していたという。)


その落書きたるや膨大な数に及ぶので、全部読むことはままならなかったけれど。
こんな所帯じみた?やり取りも見つけた。

「カギはいつものとこにかくしてある。 アバヨ」

いたずら書きは、邦生さんと佐保子さんの分が混じっていて
かなり似ているので書き手はわからないのだけど、
これは奥様が書いたんじゃないかなぁ、なんて思った。

生活感あふれるこんなやりとり。
今この世に残っていることが奇跡。


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そしてもうひとつ発見。
プルーストの似顔絵の落書き。
辻邦生さんの手によるものだろう。
「夏の砦」には特にプルーストの影響が強く感じられるけれど、私は辻さんのプルースト信仰は、その構築手法や比喩表現など、もっぱら「書く」という作業に基づくものだと思っていた。


けれど先日拝聴したフランス文学者保苅瑞穂先生のお話では、プルーストの「失われた時を求めて」に書かれた主人公(Le Narrateur)が、もがきながらも最後に天職を見出すさまに共感を覚え、それと自身を重ねたのではないか、とのことだった。

保苅先生は辻先生とは面識がなく、辻作品を長年読んできたわけではないものの、講演会前にまとめて辻先生のパリ日記を読まれたそうで、その文献を紐解いた末の感触だったという。

つまり、それだけパリの日記には、作家という得体のしれないものに向かう戸惑いや揺れが多く語られていたということらしい。

保苅先生の切り口は、感覚的なプルーストとの比較ではなく、ひたすら文献にあたって証拠や傍証を重ねつつ答えを導き出す手法で、いかにも研究者だなぁと思った。


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こちらはトーマスクックの時刻表と携帯していたカメラ。
そのほか船の時刻を丹念に書きだしたメモもあった。

ネットで一発乗り継ぎ検索なんてできない時代だからこそ、手作業が必要となり、こうして旅の軌跡が残る。
ネット検索の時代には確実に失われるであろう、大事な記憶の断片だ。


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2017.12.01 Fri | Art| 0 track backs,
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