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「辻邦生ーパリの隠者」展で見た美しい装丁の本たち
恵比寿の日仏会館で開催中の「辻邦生ーパリの隠者」展は、
作家 辻邦生さんの魅力がたっぷり詰まった極上の展覧会だった。


魅惑のポイントはいくつもあるのだけれど、
ー 例えば書斎の再現とか、佐保子夫人とのイラストのやりとりとか、
極小文字でつづられた莫大な日記とか -
中でも著書の装丁の美しさに目を奪われた。


珍しいところでは、これ。
銅版画が嵌め込まれている。

『樹の声 海の声』という朝日新聞社が出した本で、
銅版画の方は小泉淳氏の作。
白地に藍色で、お寿司屋さんの湯飲み的な落ち着いた配色。
波と魚が描かれている。


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個人的に萌えたのは、『薔薇の沈黙―リルケ論の試み』 という本。

表紙はクリュニー中世美術館所蔵のタピストリー、
《貴婦人と一角獣》だ。

クリュニーの展示室が一部改装されていた折りにこの6枚1組のタピストリーは来日を果たし、
新国立美術館で開催された展覧会は大賑わいだった。

ミルフルールと呼ばれる花咲き誇る庭と赤い地を背景にして
白い一角獣の姿が浮かび上がっている。


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『西行花伝』が谷崎潤一郎賞を受賞した際は、こんな豪華本が出ていた。

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受賞の際の表彰状、記念の皿も展示されておりー

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記念の皿は、三日月のもと、桜を愛でる西行のイラスト。

西行といえば、
「願わくは花の下にて春死なむ その如月の望月のころ」の歌を思い浮かべるけれど、
であれば、この月は三日月ではなく満月?


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表彰状には選者のサインがずらり。
ドナルド・キーンさんの署名は「キ」の字に特色がある。

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ブリューゲル風の絵(左)がついているのは
『十二の風景画への十二の旅』 (文芸春秋)。

イタリアルネサンス期の画家ポッライオーロの婦人像は、
『十二の肖像画による十二の物語 』 ( PHP研究所)の表紙を飾る。

ポッライオーロの横顔の美女はシリーズで4作品あるけれど、
私はこのご婦人が一番好き。
袖の刺繍も一番豪華。


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エドゥアール・マネの問題作「オリンピア(フランス語でオランピア)」の絵を
大胆に使用しているのは『美をめぐる対話』(筑摩書房)という著書。

ジャン・コクトーやルイ・アラゴンの作品を辻さんが訳したものらしい。


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むろん、パスポートや身分証に貼られた写真の辻さんが
めちゃくちゃイケメンだった、というのも本展の大きな食いつきポイントでは
あるのだけど。


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ただパリでの3年半は、辻さんにとって楽しいだけのものではなく、
作品を創出するための苦しい助走期間であったと聞く。

思考と手が一致するまで、呼吸するように手が動くまで、
とにかく書いて書いてかきまくったパリの日々。


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小さな字で、丁寧に、でも(おそらく)ものすごい勢いで綴られた膨大な日記からは、
作家の切羽詰まった悲壮感、トンネルを抜けたいという切実な思い、
そして書く喜びが混在一体となって立ちのぼる。


そしてふと思う。
パソコンでアイディアや原稿をつづる現代の作家さんたち。
後世、彼らの展覧会が開催される機会は果たしてあるのだろうか?

こんな中身の濃い展覧会を実現するのは困難ではないか?


だって展示する媒体が見当たらない。
パソコン画面の展示?
スマホのスクリーンショット?
USBメモリー?

ビジュアルとして、華々しい展覧会は望めそうもない。


展示会場には、本という冷たい活字になる前の生々しい肉声がこだましていた。

生々しいはずの肉声さえも、初めからパソコンの活字で生み出されるこの今という時代だからこそ、
辻さんの魂のこもった本展覧会の希少価値が強く印象付けられた。



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展覧会情報:

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2017.11.12 Sun | Private| 0 track backs,
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