日常風景 * 写真・文章 Copyright@”Mas Ciclismo Diary”
サンタ・サビーナ教会の木製扉の絵を読み解く
作家の辻邦生さんの遺品、遺稿の数々が、
今学習院大学に収められている。

作家活動をされながらも同大学で教鞭をとられた辻さん。
これらの遺品は寄贈品というかたちで大学が譲り受けたようだ。


そんなわけで定期的に学習院大史料館では
辻邦生氏の展覧会が開催されている。

大規模ではないけれど、
作家が構想を得てそれを文字に移すための綿密な
計画帖とでも言うべきものや
行く先々での日記などであふれている。

それらはいずれも細密な文字でぎっしり埋められていて、
気の遠くなるような丹念な準備を経て、
膨大な覚書が作品へと結実していくさまが浮かび上がる。


これまで史料館には何度か足を運んだのだけれど、
先日の展覧会では、妻佐保子さんに関する資料も並んでいた。
氏に多大な影響を与えたことがうかがわれる。


佐保子さんは東大で西洋美術を学ばれ、
イタリア美術方面などで活躍している名だたる学者さんを
指導したこともあるほどの人物だ。


彼女のことを調べるうちに、いくつもの著書があり、
但しそれらは小説ではなく研究論文の類がメインで、
中央公論社からは
『ローマ サンタ・サビーナ教会木彫扉の研究』という
調査報告が出版されていることを知った。


ローマ サンタ・サビーナ教会の木彫扉!
2013年のローマ旅行の折りに私が一心不乱にその意味を読み解こうとした
あの木彫扉について、佐保子さんが研究されていたのだ。


P1340106.jpg


4万円もするその本を買うのは無理にしても、
図書館で読んでみたい、そう思ったらいても立ってもいられず、
都立中央図書館で資料請求をして手にした。


ずっしりと重い巨大な本だった。

このサンタ・サビーナ教会はローマにあってちょっと異色の教会だ。

古代ローマ時代でもなく、ルネサンス時代でもない。
その中間ともいえる初期キリスト教の建物なのだ。

古代遺跡に食傷気味になったとき、
ちょっと気分転換するのにちょうどいい。


この木彫扉の浮彫は明らかに聖書のシーンを再現している。
聖書の順番通りではないため絵を読み解くのは一苦労なのだけど、
例えばこの図柄、キリストの道行きなどは
一目瞭然。

拿捕されて十字架を手に連行される様子が描かれる。


P1340111.jpg 


こちらも連行されるキリストだ。

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その他、東方三博士の図はわかりやすかった。
しかしその他の図は、よくわからない。

特に上方は暗くて降参だった。
けれどこのほど佐保子さんのご著書を読んで、なるほど、と理解した。

例えばこちらはモーセの召命。

上の段が神から巻物を受け取るモーセ、
サンダルを脱ぐモーセ。
羊飼いとしてのモーセ。

P1340113.jpg 


モーセと羊を描く図柄は、ラヴェンナの同時期の
モザイクなどでも見られるという。

私がかつて見たサンヴィターレ教会のモザイクにも、
モーセ+羊のモチーフが描かれている、
そんな一文を見つけ、旅行時の写真を改めて見てみた。

ああ、あった、これだ。
こちらの右側に

P1a670764.jpg 

羊とモーセ。
クーポラの絵の方をメインに撮った写真なので
隅っこに追いやられている。

もっときちんと写真に収めたかった。残念。

P1670764.jpg



木彫扉に戻って、こちらはエリアの昇天。
マリアではなくエリア。
天をめざす女性がいきいきと描かれる。

P1340114.jpg 


同書では、木彫の物語を読み解くだけでなく、
イタリア国内の他の制作例との比較を試みるなど
膨大な研究が基礎になっている。

修復箇所の特定や、
アットランダムになっているパネルの位置に関する
考察も含まれている。

500ページ以上の力作だ。
私は飛ばし読みしたに過ぎないのだけど、
あの時見たあの木製扉を考察した日本人がいた、
しかも心酔する辻邦生さんの奥様が、、

そんな事実に、ちょっと自分で酔いしれている。


P1340116.jpg 
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2017.08.15 Tue | Art| 0 track backs,
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