日常風景 * 写真・文章 Copyright@”Mas Ciclismo Diary”
『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展』 / 三菱一号館美術館 <感想>
癒しの色彩ハーモニー


三菱一号館美術館で開催されている『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展』は、
心地よい色彩で満たされていた。

とくに惹かれたのは、極上のブルー。

青、空色、群青色、コバルトブルー、水色、藍色、ウルトラマリン、といった
“大ざっぱ”な語彙では言い表せない、深く繊細なバリエーション。


ルノワールの女性肖像画3点(《アンリオ夫人》、《猫を抱く女性》、《神を編む若い女性》)は、
したたるような瑞々しい空色から、キリリと引き締まった藍色まで。

モデルの顔は、それぞれ背景の青を一部吸い取り、照らされ、呼応し合う。


猫を抱く女性のブルーグリーンは何気ないようでいて、複雑な風合いだ。
マルケが描いた海の色に、微妙なニュアンスをつけて、濃く、優しくした感じ?


*写真は全て、<青い日記帳×「ワシントン・ナショナル・ギャラリー展」“ブロガー・特別内覧会”>の折りに、
許可を得て撮影させて頂きました。


IMG_4080.jpg



匂い立つようなアンリオ夫人。
手元を優美に覆うオーガンジーにまで、画家は神経を行きわたらせる。

IMG_4078.jpg




ルドンが描く、のっぺりとした空は、マットな水色。
そういえば、ルドンは油絵具を溶剤で溶くのを嫌い、絵の具の中の油の存在にすら閉口したのだっけ。
《ブルターニュの村》の手前に咲くポピーに、グラン・ブーケへとつながる小さな芽を感じる。

IMG_4127.jpg



雲までがバトルしているセザンヌの《愛の争い》の空は、グラデーション。


“ケバくない”ボナールの、グレーがかった青味に包まれた《画家のアトリエ》。
人物も手前の楕円形も大胆にカットされ、ジャポニズム全開だ。
窓は、一部目張り(?)が施され、外の景色が部分的に遮断されている。

イーゼルの下方には、色が塗られた小さいカンヴァス。
手前の半円状は、テーブルと見なされているようだけど、
画家のパレットに見立てると、視線に緊張感が増して面白い。

IMG_4070_201502252306087a2.jpg




《花束》という作品では、周囲の個性的な線や模様に負けじ、と
咲く花が、背景の紺地に浮かぶ黒い線によって引きつったような表情を見せている。

IMG_4073.jpg



そして・・・ヴュイヤールにしてはAtypiqueな感じのする
《画家の絵の具箱とスローズ》。
しっとりと胸に浸み入る靄のようなブルーに、控えめのピンクが映える。
電撃的な一目ぼれ。いつまでも見ていたい!


IMG_4113.jpg



瑞々しい作品群を見ていると、こんな欠落にも気づく:

ルノワールの1900年代の肉の塊もどきブヨブヨ裸婦がいない、
サイケデリックな(あるいは、目がチカチカするような模様だらけの)ボナールもここでは控えめ、
ブーダンがせっせと描いたハズの牛の群像はない。
(ドガやマネの馬はいる。)

穏やかな作品が多いのは、今回の展示限定というより、
5年前に訪れた時の印象では、ワシントンナショナルギャラリー(NGA)全体の傾向であったかもしれない。

―・-・-

NGAは、様々なコレクションから成り立っていて、
創始者の娘エイルサ・メロンさんのコレクションも、(以下の通り)30点弱ほど来日していた。

本展訪問2度目にして、今回初めて気が付いたことがある。
淡いパステルの印象派系絵画がエイルサさんの収集品、というのは勝手な思い込みで、
実際はナビ派の絵が多かった。


ヴュイヤール独特の緊密な室内ものの他、どこかじんわりくる屋外のものも数点。

さびれた街に犬2匹;
逆光の中に身を置くケープをまとった女性のシルエット;
冴えない大きな背中の隣で歩く、目いっぱいお洒落した子どもの後ろ姿。


IMG_4101.jpg



明るいボナールにも、ほんのりとしたペーソスがある。

太陽降り注ぐ庭のテーブルセット。でも、待ち人はいない。椅子はひとつだけ・・
黄色がはじけ飛ぶ風景も、《画家の庭の階段》というタイトルにより、私的性格を付与される。

IMG_4071.jpg



ナビ派以外、例えばブーダンなども、
華やかな社交からちょっとはずれた親子と犬とか、或いは洗濯女とか。



大衆よりプライベート、
外向きにアピールするものより、自己完結型のもの。
これ見よがしな派手さより、ひそやかさ。

外向的な人の趣味ではない。
エイルサさん、内省的な人だったのでは。


―・-・-


最後にオマケ。プチな印象 -


多作なのだろう、よく見かけるけれど、モネを見出した人という紹介文以外
日本ではあまり特集されなかったブーダンが、2室にわたり展開していた。

オンフルールの美術館で見たブーダンは、ワンパターンで飽きてしまった。

でも、こうして見ると、それぞれに味わいがある。
展示数は多ければいい、というものではなさそうだ。

海岸で、海上で、旗がたなびいている。
風に向かって日傘を盾のように向ける母親の姿もある。
初期の精緻な作品から、船体がフリーハンドの線になる後期のものまで。
爽やかに吹き渡る風を感じつつ、海辺を散歩する気分。



ドガが、意外に醤油顔!



ゴーギャンの自画像は、不遜なほど自信に満ちている。
画家カリエールに贈ったものなのだとか。
(左上にà l'ami Carrière, P Gauguinという署名、左下の謎のサインのようなものは読めなかった。
マネの《笛吹き》の2つの署名のごとく、構図上のバランスをもたらす目的?)
瞳は、侮蔑の光すら宿し、まさに“上から目線”。
彼にイジめられたと言われるカイユボットお坊ちゃまには同情を禁じ得ない。



絵の表記は和文と英文。合衆国から来た作品なのでもっともな話。
ルノワールの《花摘み》のタイトルは《Picking flowers》。
なんとも、ドライであっけらかん。
盗む、しゃぶる、という意味までもつ広義な動詞でカバーするしかない。
汎用性を重視する言語の宿命か。
《La Cueillette des fleurs》のような余情はない。



他の美術館では映えないだろうな、と思われる小作品もキラリと光る。

別途描いた競馬場全景の構図のうち、左端の観客部分をそぎ落とし、コースをズームして
スピード感を引き寄せたと言われるマネの《競馬場のレース》もある。


そしてロートレックの《カルメン・ゴーダン》。
手のひらサイズのカンヴァスの上で
赤毛のカルメンが強烈な個性を放っていた。



前回訪問時、ワインも買った。
華やかさを発散させる《アンリオ夫人》のを。


IMG_4032.jpg


***

展覧会名:ワシントン・ナショナル・ギャラリー展
会場: 三菱一号館美術館(東京・丸の内)
会期: 2015年2月7日(土)~5月24日(日)
開館時間: 10:00~18:00(祝日・振替休日除く金曜のみ20:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日: 月曜休館(但し、祝日の場合は開館/4月6日、5月18日は開館)
サイト:http://mimt.jp/nga/
関連記事
2015.02.25 Wed | Art| 0 track backs,
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
"shw-greenwood" template design by Shallwill