日常風景 * 写真・文章 Copyright@”Mas Ciclismo Diary”
デ・キリコ展 /  パナソニック 汐留ミュージアム
◆ ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰- / パナソニック 汐留ミュージアム

無音の世界の不穏な空気。
例えようもない違和感。なのにどこか郷愁漂うチグハグ感。

先入観は打ち砕かれ、梯子をはずされた気分になりつつ、
喉の奥に刺さる魚の小骨のように気になるデ・キリコの作品。


現在、パナソニック汐留ミュージアムで、ジョルジョ・デ・キリコの作品約100点を集めた展覧会
「ジョルジョ・デ・キリコ -変遷と回帰」が開かれている。

デキリコ未亡人旧蔵品を寄贈されたパリ市立近代美術館のバックアップで実現したそうで
彼の制作活動が時代を追って外観でき、とても力のこもった展覧会。


これだけ一度に彼の作品を見るのは初めてだったが、
上記の印象は変わらない。いや、返って増すばかり。


そんな中、新たな発見があった。

彼が確立した「形而上絵画」においては、
写実的でありつつ、事物を常識破りの組み合わせで置くことで
非現実性が喚起されるのだけれど、
彼にとって、それ単体でも形而上学的インスピレーションを掻きたてる特定の物質・風景があった。

それは、ユダヤのビスケットとヴェネチア。


ビスケットのモチーフは初期の作品の中で繰り返し登場する。
下の広告採用された「謎めいた憂愁」の絵にもうっすらそれが見える。
(「会場入口」の「場」の文字の真隣にうっすら見える茶色い小さな長方形。)


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その事実に気づいた途端、急にデ・キリコが身近な存在になった。


彼はイタリア・フェッラーラのゲットー(ユダヤ人隔離居住地域)で
あの一連の妙ちくりんなビスケットと出会ったようだが、私の場合はヴェネツィアだった。

(*イタリアにはゲットーが点在し、第二次大戦中ユダヤ人狩りが大々的に行われた悲惨な歴史をとどめる。
特にヴェネチアのものは世界で初めて登場したゲットーとも言われる。→ 
トリエステには強制収容所・ガス室さえあった。)


初めてガラス越しに見つけた時、思わず写真を撮らずにはいられなかった。
(2009年の旅行にて)


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”お菓子”に期待する形を軽く裏切っている。
さらに、類似した形はご法度、とでもいうかのように、それぞれの個性を際立たせることに心血を注いでいる。

おいしく見せようという気概より、造形の妙への執着の方が勝っている摩訶不思議。


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これらを見て、

形而上絵画への応用に向かったデキリコ に対し、
不恰好でへんてこ、と形容する以上の発展を見なかった凡人の私・・・



そして彼が描いたヴェネチアの絵(丁度このアングルだった)。
(2009年の旅行にて)

P1540556.jpg


街全体が海の上の舞台、という非現実性を兼ね備えているから、それ以上他のものを置く必要はない。
ありのままが虚構のようなもの。

デキリコが描いた《ヴェネツィア、パラッツォ・ドゥカーレ》は、
カナレットの絵より勢いがあって、繊細さの中に逞しさを感じ、気に入った。

その隣、アクの強い《ノートルダム》はボリューム感満点。



展示室は時代ごとに分類され:

・初期の作品4点が出迎える形而上絵画の発見の時期、
・丁寧に描き込まれ思い入れを感じさせる古典主義の時代、
(繊細な色相による筋肉の隆起が見事な《剣闘士の休息》!)
・華やかなネオバロック時代、
(妻が登場する《赤と黄色の布をつけた座る裸婦》のぎらめく肌の質感!)
・吟遊詩人など目に馴染んだ再生―新形而上絵画
・浴場や太陽が登場し、軽やかさ漂う永劫回帰の時代、、、

それぞれに良いけれど、初期の作品に特に惹かれる。


例えば《謎めいた憂愁》。
チャレンジの気合いに満ちつつも、筆遣いには模索するような慎重さが感じられ、
重たく硬い絵の中に、ほんのり瑞々しさを感じるから。



新形而上絵画のコーナーには、モチーフとして親しみのある《吟遊詩人》の絵が2つ。
薄い色合いのものと、ブリヂストン美術館の作品にやや近いもの。

これを初めて見た時の衝撃は忘れない。


描かれた兵士とそぐわぬ場所と事物、顔のない没個性、といった異質さだけでなく、
硬質な鎧姿の絵につけられたタイトルが、
ふんわりメルヘンを呼び起こす「吟遊詩人」という強烈なギャップ。


ただ、この絵の奇妙さの原因が、モチーフのみに限定されないことに気が付いたのは
随分経ってからのこと。

Perspective(遠近法)がひしゃげていて、
Point de fuite(消失点)が複数あるという点だ。
それも自分で気づいたのでなく、ある人の指摘で気づかされた。



彼の絵に共通するキーワードは、デペイズマン (dépaysement)だそうだ。
本来あるはずがない場所に置く ことにより、違和感をもたせることだそう。

初めて耳にしたが、フランス語のPays(国)からDe(逸脱)することから生まれた言葉だろう。
居心地の悪さが呼び覚ます様々な感情。
デ・キリコの絵の謎はここにあった。



この度の鑑賞はweb特別内覧会での訪問だった。
また別途訪れ、デキリコのメランコリックな鷹揚さに弄ばれたいと思っている。


***

会期 : 2014年10月25日(土)~12月26日(金) パンフレット»
開館時間 :午前10時より午後6時まで(ご入館は午後5時30分まで)
休館日 :毎週水曜日(但し12月3・10・17・24日は開館)
サイト :http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/14/141025/
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2014.11.06 Thu | Art| 0 track backs,
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