FC2ブログ
日常風景 * 写真・文章 Copyright@”Mas Ciclismo Diary”
「あしたのジョー、の時代展」の昭和は、例えようもなく熱かった
そこに充満していたのは、”今とは異質な時代”の空気。

静的な滞留物としてではなく、目に見えない時代の流れといった動的なものとしてそれはこちらに響いてくる。
恐らくそうした流れは決して可逆的にはなり得ないのだろう・・・

練馬区立美術館で開催中の「あしたのジョー、の時代展」で感じたことだ。


昭和が詰め込まれている、とは聞いていたけれど、
予想以上に多くのものが胸を駆け巡った:


高揚感 (日本における、ある意味でのLes années folles=狂騒の時代、その熱気を共有)
圧倒 (原画を見て。通常の2倍もあろうかという長さの腕で汗のしぶきとともに空気までもが飛び散るがごとく描かれた
     パンチの迫力とスピード感など)
憐憫 (引きこもって描き続け体調を壊したちばてつやさんは、心情を劇中人物の言葉に託したこともあるそう。
     過酷な執筆作業が、「青春と呼ぶにはあまりにくらすぎるわ」という台詞に投影されている)
心痛 (ちばさんご自身の戦争体験が金竜飛の戦争孤児設定に反映されていると知る)
どん引き (昭和の展示コーナーで見た、アングラ劇の誇張的過激さ)
唖然 (同コーナーで知った万博破壊共闘派の全裸片手上げなど、滑稽さを正義に変える大義名分の力)
羨望 (マンガにあそこまで感情移入ができた人々の素直さに対して)


これら全ては、時代の落差に対する驚き、と要約できるのかもしれない。


380IMG_3837


ついお隣のはずの昭和の景色が全く別世界で、随分と戦争の色を引きずっていたことに驚く、
そんな体験は、木村伊兵衛さん昭和の写真展などでもあったことだけど、
振り返って見た時代が、これほどまでにエネルギーを持っていたと実感するのは初めて、かもしれない。


強いて昭和っぽくない要素を見出そうとすると、洗練されたちばさんの描線、
登場人物の均整の取れた(=脚長い、鼻高い)容姿だろうか。


入口のちばさん直筆の書には、あしたのジョーが描かれた時代感が綴られていた。

・ひたすら部屋にこもって描いていたけれど、それでも世の中が高度成長時代へと突入していることはひしひしと感じた。
・そんな昭和という時代に突き動かされ、熱に浮かされたように描いていた。
・ただし、この成長期は、公害といった負の要素も伴っていた。
・そんな時代をこの機会に分かち合えれば・・・
といった内容だったと記憶する。


これまで時の流れによる空気の変化は小さいところでは感じていた。
例えば、平成5年から大ヒットしたTV番組「●●の鉄人」。
近年リニューアルして放送された際、どこかシラけてしまい、見るのを辞めた。

日々の見えない革新によって、アナログ的なつくりが古びて見えた、そんなところだろうか。

平成初期からこんにちまで、その間、携帯電話が登場し、ネットも格段に進化した。
だから、TV番組を再度引き合いに出せば、純愛ものがなかなかヒットしないと聞く。
携帯の登場によりすれ違いの悲恋はもう描けない。


そうした社会の変化が及ぼす微細な心理的変化はなかなか気が付かないけれど、確かにある。

ましてそれが、戦後の高度成長期という特殊な時代であれば、その時代がもつ個性、そして”今”とのギャップは一段と大きい。



第一室で特に目を引いたのは、作品の第一話の導入部。
高森朝雄(梶原一騎)さんの原作にはなく、自身で追加された由:

物語は、こんな言葉で始まっている:

東洋の大都会といわれるマンモス都市東京
そのはなやかな東京のかたすみに
(中略) 群れあつまる色あせた流木やごみくずのような
そんな街があるのをみなさんはごぞんじだろうか?
この物語は そんな街の一角からはじまる・・・・



原画の展示を順を追って見て行けば、ラストシーン、”白い灰”になるまで、ストーリーは常に情感を伴っていた。

冒頭の「マンモス」という言葉もさることながら、背景に描かれた工場の煙突が感じさせる公害問題など、
全体感だけでなく、細部もべたべたに昭和的だ。

アニメーションの上映もあり、時折静止画混じりのガタガタした人物の動きを不自然と感じなかったあの頃を懐かしむ。


陳列ケースにはコンテも置かれていて、書かれた「注意書き」には、
・ストレートな口元で
・奥目にて
などと、ちばさんの指示。

キャラクターに対するこだわりが感じられる。


3Fは、お弁当箱を始めキャラクターグッズ、写真その他媒体による昭和の検証、
アーティストたちによるジョーへのオマージュなど。


オマージュ作品数々ある中で、日比野克彦さんの作品=よれた紙によるボクサーパンツに唸る。
ジョーの象徴として、敢えて強固なつくりのグローブではなく命を削ったよれよれ感が出るボクサーパンツを選んだセンス。
「ぴあ」でおなじみ及川正通さんのSTAP細胞的ジョーには大爆笑。


さて、この日のハイライトは、「力石徹への弔辞(1970年3月力石徹告別式での弔辞朗読再演)」。
昭和精吾氏(元「劇団 天井桟敷」団員)によるものだ。


作品の中でジョーの宿敵・力石徹が落命したとき、
寺山修二氏のリードで、告別式が行われたそうなのだ。

その時の様子が今回再現された。


(ロビーで行われたこの儀式、写真撮影はOKだった。)

漫画の登場人物の死で、現実の葬儀が行われる・・・熱かった時代、とはいえ驚くべき事実だ。


IMG_2351.jpg


もっとも、それが当時すべての人に当たり前、と受け止められたわけではないことも知った。

IMG_2372.jpg


力石徹の死に際して寄せられた弔辞、香典の量がまるで洪水であると報じ、
マンガが引き起こす連帯感のパワーに、「こわい」、と見出しをつけた新聞もあった。
(確か東京新聞。展示場にある。)

熱気の渦を客観視できる目も、確かにあった。

IMG_2376.jpg



私自身、あしたのジョーの細かいストーリーは余り知らなかった。
けれど時代の象徴として、本展覧会はすごい力で迫ってきた。



* * *


【会場名】 練馬区立美術館
【展覧会名】 あしたのジョー、の時代展
【HP】 https://www.city.nerima.tokyo.jp/manabu/bunka/museum/tenrankai/joe2014.html
【会期】 平成26年7月20日(日曜)~9月21日(日曜)
【休館日】 月曜日(ただし、7月21日、9月15日【月・祝】は開館、翌日休館)
【開館時間】 午前10時~午後6時※入館は午後5時30分まで
関連記事
2014.08.04 Mon | Art| 0 track backs,
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
"shw-greenwood" template design by Shallwill