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日常風景 * 写真・文章 Copyright@”Mas Ciclismo Diary”
東京都江戸東京博物館「 明治のこころ モースが見た庶民のくらし」が語るもの
日本に来た異邦人は、その中で暮らしている我々がまったく気づかないような視点で日本を見ている・・・

それを痛感したのは、昔どこかの美術館で見た、外国人フォトグラファーによる日本風景の写真展だった。


中でも鮮烈な印象を残したある1枚の写真がある。
そこに写っていたのは、単なる”ジュースの自動販売機だけ”だった。

繁華街にある自販機が盗難にも合わず、そうやってすくっと屹立している姿に、
写真家は感動を覚えたようなのだ。


そうか、それが日本を外から見る、ということなのか。
美しいわけでもない猥雑な街に置かれた自販機、という構図の一枚は、”信頼で構築された安全な国日本”を雄弁に物語っていたのだった。


先日滝川クリステルさんが行った五輪招致の”おもてなしスピーチ”にも、まさにそんな外からの視点が生かされていた。

フランスに行ったとき、確かに私も日本のおもてなしの心に気づかされた。
(ただし私の場合、日本のサービスの良さ、というドライな言葉で私の胸に染み入ってきたのだが、それを”おもてなし”という温かみのある一言で要約した滝川さんの技には感服する。)

つまり、私が初めて見て・体験したフランスは:
サービス業の人が、クライアントと店内で罵詈雑言を嵐のように浴びせかけて大ゲンカする国であり、
ご機嫌ななめの切符窓口の人が客を無視して仕事をボイコットする国、
なのだった。


フランスがオカシイ、でなく
日本のサービス業の在り方が一流であり、そちらの方が特異、そう考えると、自分がいかに日本のことを知らなかったかを実感する。
そんな思いをうまく五輪委員の前で披露できたのが滝川さんのスピーチだった。


前置きが長くなったけれど、東京都江戸東京博物館で開催中の「 明治のこころ モースが見た庶民のくらし」も、そんな発見に満ちている。

貝の研究をしていたエドワード・シルベスター・モースは、シャミセンガイが多く生息している日本に行くことを志し、明治10年に上陸。
以来3度来日を果たしている。
中でも彼の名を有名にしたのは、いわずもがな、大森貝塚の大発見。
貝の研究家だけあって、車窓から見た大森の風景から、貝塚がある、とピンときたという。


彼が業務上残した功績の展示も今回もちろんある。
大森貝塚から出土した品々だ。

(*注:以下は館内の写真となりますが、博物館より特別に許可を得て撮影したものです。)

貝殻に
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土器類。
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でも、彼が日本で行ったことはそれだけではなかった。
元製図師という腕を生かした、膨大な量の絵日記・日記を残したこと。

彼の言葉や描いた絵は、我々がその真価をあまり評価することなく過ごしてきた数々の美徳に
気づかせてくれる。


例えば、彼の絵日記の中には、こんなものがある:


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それに添えられた言葉:

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モースは、当時おんぶの文化を新鮮な目で見つめただけでなく、それによる効果、癇癪がない、といったことにも着目していた。


実はこの展覧会を見る前に、トーハクで開催中の特別展「京都―洛中洛外図と障壁画の美」を単眼鏡を使ってつぶさに見てきたばかりなのだが、そのとき、洛中洛外図を見て、おぶる、という行為に関して、まさに以下のことを実感していたばかりだった -

”洛中洛外のどの図にも、たいてい子供をおぶった親の姿が描かれている。
それは、祭りや物売りの光景同様、日常的なシーンだったみたいだ。
今ではベビーカーがそれにとってかわったけれど、肌と肌を密着させた背負う文化が昔はあったのだなぁ”、と。


洛中洛外図が描かれたのは、16-17世紀頃。
モースが日記をしたためたのは19世紀後半。

数百年の間、背負う文化は継承されたものの、残念ながら、今では失われつつある。
ということは、明治の日本は江戸に近く、平成からは遠い世界になってしまったということか。


おんぶをするというぬくもりある行為の消滅は、モースの推論によれば、癇癪持ちの台頭にもつながるということになる。


博物館入口にある子供たちの素朴な笑顔がむしょうになつかしく感じられるのは、そのせい?

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さらにこの展示には、洛中洛外図の展覧会とシンクロする話が、もうひとつある。

丁度トーハクで洛中洛外図に描かれた職人の工芸品や、家の中に置かれたついたて屏風を見ながら、物知りの友人がこんなことをつぶやいた:

”昔は職人がつくる工芸品の中には、普段使いされていたものも多くて、それだから逆に博物館に残っていないのよ。名品なら、保存されたのでしょうけれど。”


そのとき、ヴィクトリア&アルバート美術館で見た、膨大な根付けのコレクションを見て驚いたときのことを思い出した。
日本で見たことないものが、こんなところにある!と。


そうか、我々が価値を見出すことなく日常品として使ってきたものも、よその国の人にとっては珍しいものであり、収集意欲をかきたてるものなのらしい。

モースもしかり。
雑巾やたび、下駄なんていうものが大事に保管され、今我々はそれをおがむことができる。
今となっては歴史的に貴重な生活様式を物語る品々を。


モースが館長を務めたことのあるピーボディ・エセックス博物館(Peabody Essex Museum)からきた今回の展示品は、昔の暮らしをしのぶ格好の材料となっている。



鏡付きうちわ:
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源氏物語が描かれた歯磨き入れ:
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日常品のようだけど、いまとなってはレアな品々に加え、
こんな珍品(保存されて珍品になった例)まで。


今も腐らず保存された貝殻のお菓子、
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山形屋のノリ(今でもノリの香がするそう。)
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さらに、洛中洛外図でやはり目立っていた、店の生業を表す暖簾が、
こちらの展覧会では看板として展示されていた。

櫛屋:
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三味線屋と、のり屋の看板:
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貴重な明治の心・古きよき伝統を我々に伝えてくれたモース。
彼の臆することない冒険心・探求心に感謝しつつ。


最後に彼のそんな気概を要約している文章を。
彼の日記の言葉から:

「通弁(通訳)なしでも結構やっていける。
私は日本中一人で旅行することも、
躊躇しない気でいる。」

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公式サイト 明治のこころ モースが見た庶民のくらし
東京都江戸東京博物館 1階 展示室
〒130-0015 東京都墨田区横網1-4-1

2013年9月14日(土)~12月8日(日)
休館日:月曜日
(ただし、9月16日、23日、10月14日、11月4日は開館。10月15日(火)、11月5日(火)は振替休館)

開館時間:午前9時30分~午後5時30分
(9月28日(土)までは、土曜日は午後9時まで。10月5日(土)からは、土曜日は7時30分まで)
※入館は閉館の30分前まで
http://www.asahi.com/event/morse2013/
http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/newtest/exhibition/special/2013/09/index.html
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2013.10.18 Fri | Art| 0 track backs,
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